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宮崎地方裁判所 昭和54年(行ウ)1号 判決 1983年1月14日

原告

美馬元矩

右訴訟代理人

鍬田萬喜雄

被告

九州郵便局長

塩谷稔

右訴訟代理人

伴喬之輔

被告指定代理人

麻田正勝

外九名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

第一原、被告の身分関係、経歴など<省略>

第二本件懲戒処分理由たる事実の検討<省略>

第三処分説明書に記載のない事由の当否

一原告は、被告主張の懲戒事由中には、懲戒処分書及び処分説明書に記載されていないものがあり、本訴において右記載のない事由を新たに付加して主張することは違法である旨主張するので、以下この点につき検討する。

公務員に対する懲戒処分は、公務員の勤務についての秩序を保持し、綱紀を粛正して公務員としての義務を完全に果させるために、その者の職務上の義務違反、その他、国民全体の奉仕者としての公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため科される制裁である。

そして、懲戒権の発動に当り、公務員の身分保障(国家公務員法七五条一項)と懲戒処分の公正を図ること(同法七四条一項)、平等取扱い(同法二七条)、不利益取扱いの禁止(同法一〇八条の七)が公務員法上要請されているが、処分時に被処分者に処分事由を全く知らさないとすれば、右要請を確保することができない虞れがある。そこで、国家公務員法八九条一項は、「……懲戒処分を行おうとするときは、その処分を行なう者は、その職員に対し、その処分の際、処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない。」と規定し、処分説明書の交付を義務づけ、もつて、当該職員に処分事由を熟知させ、これに不服がある場合には人事院に対する不服の申立(審査請求または異議の申立)等の機会(同法九〇条、九〇条の二)を与え、前示諸要請の確保を図つている。

したがつて、処分説明書に記載を要する処分事由は、懲戒処分の主要な原因となる同法八二条各号該当の非違事実を被処分者が如何なる事由で処分されたかを知り得る程度に具体的に記載することを要し、処分説明書記載の事実が認められない限り、これに記載のない全く別個の事実を処分の主要な原因とすることはできず、処分の当否を争う争訟手続においてこれを追加主張することはできないと考える。

もつとも、処分の要否及び後記処分の種類の選択については処分説明書に記載のない事実も前示主要な懲戒事由に該当する事実に付随的な情状事実としてはこれを考慮して差し支えないと解される。けだし、右判断に必要な行為の原因、動機、性質、結果、勤務態度、処分歴、処分の影響等広範なる事情を逐一明記することは不可能かつ不適切だからである。

二本件懲戒処分における処分説明書中の処分の理由が、請求の原因(二)項のとおりであることは当事者間に争いがなく、右によればその処分理由は、「安藤某から依頼された保険貸付金利息一六万八、六〇〇円を横領等したものである」とされ、右事実につき日時、場所、方法等の特定がなされているのであるから、被告の主張二(二)2(1)の事実のみが処分事由として記載されているにすぎないというほかない。

したがつて、前認定第二の一の安藤正俊振出の小切手金の着服横領の事実が原告に対する本件懲戒処分の処分事由であるところ、これが国家公務員法八二条一、二号所定の懲戒事由に該当することは前示のとおりである。

そして、前認定第二の二の馬場トメヲの保険貸付請求の代理行為、同貸付金の私的な借用行為、同三の久木田ヨシエからの小切手金五八四万七、九七八円の私的な借用行為と虚偽話法による保険募集行為は前示懲戒処分事由に対する附随的な情状の事実としてこれを加味して本件懲戒免職処分の適否を判定すべきところ、本件懲戒免職処分は前示のとおり国家公務員法八二条一、二号所定の懲戒事由に該当する非行の懲戒処分として適法なものといわねばならない。

第四懲戒権濫用の主張の検討<以下、省略>

(吉川義春 有満俊昭 鳥羽耕一)

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